研究紹介

立体視について

 我々人間は世界を立体に見ています.当たり前のことですがこれは重要なことであり,何故立体視が出来るのか,それを解明することで,新しいデバイスの開発に大きく役立つと考えられます.
それではまず,遠近法の起源から見ていくことにしましょう.


 上の絵はドイツルネッサンスの画家、Albrecht Durerの描いた絵です。この絵では、平面に奥行きを描く遠近法が正確に描かれています。それ以前のルネッサンス絵画では、人々や物の大きさが間違っていました。
遠近法についてはイタリアの画家、レオナルド・ダ・ヴィンチも記述しています。
しかし,ご存知の通り,網膜像は二次元座標で形成されます。このままでは奥行きは感じられず、脳はそこから奥行きを検出し,物体の実際の形を推測しなければなりません.

 脳は立体視を行うために,いくつかの手がかり(cue)を用いています。
この手がかりは大まかに2つに分けることが出来ます。
1. 両眼手がかり(binocular cue)
2. 単眼手がかり(monocular cue)
つまり、片目でわかる奥行きの手がかりと、両目でわかる手がかりということになります.
次にそれらを見ていくことにしましょう.


1.両眼手がかり(binocular cue)
 ・ 網膜視差(Retinal Disparity) 
 人間の2つの目はわずかに異なる位置にあるため、見ている物体は同一の網膜像にはなりません。しかし、脳がこの2つの情報を統合しているため,この差には普通気づきません.
 この差を簡単に確認する方法があります.2本の人差し指を目の前に異なった距離で立てて片目ずつ交互に見ると、横の間隔が変わることがわかります。


 このように横の間隔における差を網膜視差(retinal disparity)といい,この視差は物体と自分の距離によって変わります.
つまり,視差は2つ以上の対象の奥行きの関係を明確にします。
このような右目と左目からの異なる情報を脳で統合することにより,奥行きを知覚することが出来るようになるわけですが,それだけでは完全ではありません.
下の写真を見てください.左目の視点では見えなかったテニスボールが、右目の視点では見えるような状況です.
この場合,テニスボールは右目にしか映ってはいませんが,テニスボールが箱よりも奥にあることは知覚できます.
つまり単眼視野でも多くの奥行き情報があるということになります.次はこの単眼の手がかりをを見ていくことにしましょう.

左目 右目

2. 単眼手がかり(monocular cue)
・ 閉塞(occlusion)
上の写真のように、ある物体が他の物体を隠している場合、遮られた物体は遠くにあるものとして知覚されます.この手がかりを閉塞(occlusion)といいます.この手がかりを用いた例として、カニッツァの三角形があります

あるはずのない三角形が見えてしまう錯視として有名ですが,これは黒の円が白の三角形によって隠されている,という見方をしてしまうために起こるものです.このときに閉塞が働いています.
 しかし、これだけでは離れた物体の実際の距離などはわかりません.さらなる手がかりが必要となります.

・ 大きさ(size)
 まず,下の絵を見てください.


 小さな正方形ほど遠くに見えることがわかります。大きさが変わることで網膜像の大きさが変わります.同様に,物体の距離が変わることも網膜像を変化させます.このように,物体の大きさは距離を知る上で手がかりとなることがわかります.
さて,月の錯視というのをご存知でしょうか?
経験があると思いますが,地平線近くにある月よりも天頂にある月のほうが小さく見えるというものです。大きさが違って見えるのは、月の知覚距離(perceived distance)が変化するためです.地平線近くには多くの奥行き手がかりがあるので、月が天頂にあるときよりも遠くに見えます.そのため,我々の知覚では月が大きく見えるのです.

・ 遠近法(perspective)
 まず,線形遠近法(linear perspective)から解説します.下の図のように,風景に沿って線を引くと,一点に収束するように線が伸びていきます.この手がかりは強く知覚に影響します.


 この手がかりを用いた錯視は数多くありますが,有名なのはポンゾ錯視です.2本の水平線は実際は同じ長さなのですが,上の線が長く見えてしまいます.
これは,線形遠近法により奥行きがあるものとして絵を知覚してしまうために,上の線は奥にあるものである,と脳が解釈してしまうために起きる現象です.


 また,texture密度の変化やコントラストの減少でも奥行きを知覚することが出来ます.コントラストの減少の例としては,空気が多くのゴミや水分を含むとき,遠くの物体から反射した光が長い距離を通らないとならないためにコントラストが減少し下の図のようにかすんでしまい,奥行きを感じることができるというものです.これは空気遠近法(aerial perspective)と呼ばれています.

テクスチャによる奥行き知覚 空気遠近法

・ 陰影(shading)
 最後の手がかりとして、陰影が挙げられます.下の図は影の位置が違うことにより,浮いている位置が違って見えるという例です.
ただし,別の解釈も可能で,正方形の位置はそのままに,光源が移動しているという可能性もあります。しかし,人間は正方形が上下に動いているように見えてしまいます.これは,光源は動かないものと思い込んでいるためです.

陰影による奥行き知覚

以上で単眼手がかりは終わりです.しかし、最後に強い手がかりが1つ残っています.

3. 運動視差(motion parallax)
 人間の動きは非常に強い手がかりとなります.
動きにより,視界にある物体は動きます.電車や車の窓から外を見ることを考えます.まず,地平線のような遠くのものを見ると,自分と地平線の間の物体は進行方向と逆に動いて見え,近いほど早く動きます.次に,地平線と自分の中間あたりを見ると,固視点と自分の間の物体は変わらず逆に動きますが,固視点より遠くの物体は進行方向と同じ方向に動いて見えます.これを運動視差といいます.
映画やテレビなどは動きから奥行きを表現しており,運動視差は両眼視差と同じ程度の影響があります.
では,運動視差があれば両眼視差はいらないのではないでしょうか?
これは,おそらく狩りをするときに,頭を動かさず,忍んで獲物に近づく必要があったために,両眼視差が発達したのではないかと思われます.

 今後,立体ディスプレイ,ホログラムなど,我々の日常生活に立体視が活用されることが多くなることが予想されます.
我々がどうやって世界を立体に見ているのだろう?という研究は今後ますます必要になっていくのではないかと思われます.


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